潮風の薫る 梅月の柏餅
私が初めて梅月 の柏餅を食べたのは、幼稚園の年長組にあがった年のお盆だったと記憶しています。
祖父母の家は海から歩いて徒歩2分ほどの距離にあり、夏は窓を開けていればエアコンがいらないくらい涼しく、頬を優しく撫でては通り過ぎて行く潮風が大好きでした。
毎年お盆の時期になると親戚が集まり、そこではかならずおはぎや煮物に混じって梅月の柏餅が並んでいました。いちばん始めに手をつけようとしてよく叱られたことを覚えています。
先の東北大震災の津波により、祖父母の家は流されてしまい想い出の場所は味気ない更地になってしまいましたが、梅月が場所を変え再復帰したと言う話を聞いたときは胸に込み上げるものがあり思わず目頭が熱くなりました。
私にとって梅月の柏餅は特別なごちそうのままです。
梅月のある福島県いわき市久之浜町は浜に面していて、漁業が盛んな町の一つです。
波立海岸と呼ばれる沿岸は、元旦の初日の出から初夏の浜えんどうの絨毯、真夏の海水浴まで四季折々に時間の経過で少しずつ表情が変わる名所の一つです。
今現在は津波対策の工事のため気軽に立ち入ることはできませんが、また以前のような姿を見せてくれることだろうと信じています。
また、側にある医王山波立寺は806年、徳一大師によって開創され、立った姿で海中より出現されたという薬師如来像を本尊としていて、三代将軍・家光公より御朱印を賜り、国土安泰・万民豊栄の祈願道場とされ、平城主内藤候の帰代も得ていたと言われている由緒あるお寺です。
この日お店にいたおばちゃんに柏餅を頼むと手際よく包んでくれました。できたての柏餅はまだほのかに温もっていてあたたかくて、車の中で食べたいのを我慢して家にいそいそと持ち帰りました。これがその梅月の柏餅です。
せっかくなので包丁を入れて断面の写真も撮ってみました。
見てわかる通りつきたての生地はやわらかくて薄くて、あんこがぎっしりです。
爽やかなヨモギの香りに、滑らかでこざっぱりとした甘さのあんこが口いっぱいに溢れてにこにこしてしまいます。気づけばあっという間に食べ終わっていました。
梅月のあんこ作りは作る前からあずきを冷やし、水分を飛ばしながら半日から1日掛かりで仕込むため大変な作業だそうです。原料は、長野県産の槲の葉(かしわのは)とヤマゴボウ、オヤマボクチ、ヨモギなどを使用していて、この味はここでしか味わえません。
1891年創業の梅月の味を愛する人は根強くいて、片寄清次社長はなじみの客から梅月の柏餅を絶やすなと激励され、店の再開を何度も考えた末、80代に差し掛かった身体でありながら、震災の1年後に店を復帰させることを決断したそう。どうか健康で末永く続けて欲しいです。
数に限りがあるので、なるべく早めの時間にいくことをお勧めします。
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店名 梅月 (ばいげつ)
電話 0246-82-2020
営業時間 7:30~14:00
定休日 火曜日
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